白い部屋 新人たちの乱入さわぎで、夢成長促進銃で子供にされてからかなり時間がたった。 俺とケロロは元にもどったが、クルルはまだ子供のままの姿のようだ。 生体的特徴が違うせいだろう。 傷や怪我が早く治るように、俺の回復能力は高い。 俺は一番に元に戻り、ケロロが遅れて元にもどったが・・・ こいつがいつ戻るかは見当がつかない。 回復力は一般のケロン人より低いようだ。 当人はわかっているようだか言おうともしない。 要するに長引くのだろう。 タママまで小さくならないでよかったと言うものだ。俺たちと同じ時間戻ってしまったら子供じゃすまないだろう。 きっと赤子ほどになってしまうところだった。 だか、クルルにも同じことがいえる。子供といってもまだ走るにもおぼつかない年だ。
「タイチョウ、いい加減ラボにもどっていだろ」
自分だけ小さい姿でいるのが嫌らしく、出ていこうとするクルルにケロロは心配そうに言葉をかけた。 「いや、あのね、我が輩だっていちお心配してここにいろっていってるわけで・・・」 「それが余計なおせわだっ・・・!!?」
振り向きかげんで歩いていて前をみていなかったクルルはケロロがかたしそびれたニッパーにつまづき、 頭から床におもいきりダイブし顔面をぶつけた。
「ク、クルル、大丈夫でありますか・・・?」 しばらくつっぷしたままだったので俺も心配になり抱き起こす。 「大丈夫か、クルル?」 ふるふると小刻みにふるえ痛みにたえながら俺の手を振り払い、 愛用のノートパソコンを持ちよろよろとドアを出ていった。 ケロロはケロロでどうしよう、という顔で見返して来るだけ。 仕方ない。俺が様子を見に行くか・・・
後ろからついてきているのがわかっててふりむきもしない。 あっ、と声をかける前にまた顔面から床にダイブしていた。 くっ・・・、と痛そうな声をだし、またよたよたと歩きだす。 パソコンなどはなしてしまえばいいのにとおもうが、俺もあの状態で銃を持っていたらきっと放さないだろう。 とりあえずラボまではあと少しだ。あれくらいなら戻れるだろう。
ギロロは小走りで医務室から治療箱をとりだし、 中に消毒液とバンソウコウが入っているのを確認し、それらを持ちラボに急いだ。
ラボに入るとクルルはいつもの椅子に座っていた。 後ろから覗くと、ラボのコンピュータのキーボードにうまく指を動かせないようだ。 要するに手がちいさいというわけだ。それに前のめりにならないと奥のキーにも届かない。 何も出来ずイライラしてるクルルの椅子をくるりとこちらにむけた。
「・・・なんか用かよ。オッサン」
膨れっ面のクルルにどうも笑いが込み上げそうになる。 「足を見せてみろ。あんだけ転んだんだから擦りむいてるだろう」 大きなお世話だといいかけたクルルの足を無理つかむと、痛いのか小さな悲鳴がもれた。 膝からは血がたれている。 これくらいの子供なら一度転んだだけでも大泣きするだろう。 「よく我慢したな」 「子供あつかいすんなよ、オッサン」 クルルはまた膨れっ面をしている。これのどこか子供じゃないというんだ。 傷近くにガーゼを置き、消毒薬をかけ、たれた部分をふきとる。 傷にしみるのか、ときたまビクリとからだをふるわせる。
「よし、終わったぞ」
クルルは自分の膝についた大きなバンソウコウ二枚を見つめていた。 クルルはどれくらいで戻るのだろうか、俺は戻るまでいたほうがいいのだろうか。
くるりと椅子を戻し、今度はノートパソコンをひらき異常がないか調べているクルルの小さな背中をみていたら、 なぜか一人にしておけない気になった。 出ていけともいわず、ただパソコンに向うクルルを見てふと思う。 こいつは小さいときからこうなのか? ずっとパソコンに向いっぱなしで。 そういえばこいつの小さい時のことなど何一つ知らない。 経歴には隊編成時にざっと目は通したが、どうせ手が加えてあるんだろうと思いそこまで鵜呑みにしていない。 今更聞くわけにも行かないが、気になる。 色々考えいたがクルルの言葉でふと我にかえる。
「センパイ、見られてっと集中できないんだけど」
とりあえず考えていても仕方ない。 椅子にすわり足をプラプラさせているクルルに近寄り抱き抱えた。「んなっ、オッサン何するんだよっ!」 じたばたと俺の腕から逃れようと暴れている。 「お前は今子供なんだ。子供は早く寝るもんだろう!」 「だから子供扱いするなってっ!」 ギロロはじたばた暴れるクルルを軽く抱き締めた。 「全くお前は・・・子供になった時くらい年上に甘えたらどうだ」 溜め息まじりでそういうと、クルルは暴れるのをやめてぽつりといった。 「甘え方なんてしらねぇよ・・・」 そのままこっちを見ようとしない。 ギロロは抱き抱えなおし、顔を見えるようにむかせ覗きこんだ。 あまり見たことのない表情。少し寂しそうな表情。 そのまま抱き抱えベットにそっとおろし、寝かせようとした。
するとクルルが一人ごとのようにしゃべりだした。 「あんな部屋、大嫌いだった・・・」 部屋? 「俺の小さい時の記憶には軍の研究室の真っ白な部屋しかないんだよ」 クルルがラボの脇につくったこの寝室も真っ白だった。 「だから嫌でもそれと似たような形状になる。」 天井をうつろげにみつめている。 そのしゃべる様子から嘘ではないようだ。 「あんたには忘れて行く記憶もあるだろう?」 「あぁ。」 「だがな、俺には記憶を忘れていくことがないんだよ。全て覚えてる。」 そんなことがあるのか、忘れないなど。 「だから意図的に記憶を消された部分は完璧な空白としてのこるんだ。自分の知らない時間としての空白が。 俺にはその空白が沢山ある」 いまいち理解できず怪訝な顔をしていたら、クルルは俺の方をむいた。 「要するにモルモット扱いされた時の記憶がないっつうこと」 「いつも目覚めると左腕に投与のあとだけがあって、記憶は真っ白。 それがその施設にいた時間の半分以上をしめてる。残った記憶も白い部屋だけだしな」 クルルはあっさりといいきった。
言葉が出なかった。そんな小さな子供にまでそんな惨いことをしていたというのか軍は・・・!
「まぁ、でもそこにいたのは三年くらいだったかな。あとはまた・・・」 続きを言いかけたと同時にギロロはクルルの目を手でおおい、小さな声で、もういいといった。 あまりにも聞いていられない。 聞いていて辛かった。 今目の前にいる小さなクルルにそんなことがあったなんて。 俺がそのくらいの時はどうだった? いつも隣りに兄と両親がいて、友人と遊んで、叱られて、笑いあって・・・
なんでここまで違うんだ!なんでこんなにも違わなきゃならないんだ!! 軍人として星につかえた。なのに、こんな小さな子供にまでてをかけるのか!? 俺が守ろうとしているものは何なんだ!
今まで信じていたものが崩れそうになった。 どうしようもない気持ちになる。
「オッサンが泣いてどうすんだよ」
ふとクルルの顔を見ると、いつもの陰湿なニヤニヤ笑いをうかべていた。 何か言おうとしても言葉がみつからない。 「センパイを泣かせるために話したんじゃないんだけどな」 くっくっくっと笑いながら布団の上をころころ転がっていた。 しまいに俺が知りたそうな顔をしてたから話してやったとまでいう。 こいつの考えていることが読めない。辛いはずではないのか・・・
クルルは少し眠たそうにあくびをしつつちらりと俺の方をみた。 「明日には戻ってるはずだからもうダイジョウブだぜ」 そう言いながらもどこか寂しそうにみえた。今日くらいは俺から一緒にいてやるか。 「じゃあ明日までここにいるとするか」
少し俺の顔をみてうつぶせでそっぽを向いたが、おっぽがひらひらと動いていた。 布団をかけ、頭をなでて電気をけしベットのわきに腰をおろした。
俺にはふわふわと降る尾っぽが嬉しそうにみえた。 ちゃんと甘えられるじゃないか。
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前から書くか悩んでいたクルルの過去。 ほんとはもっとヒドい過去だったと思うんですが、今回はそこまでかたらなくてもいいかなとおもいこんな感じに。 クルルは多分昔のことは事実として受け止めていてもつらかったとおもいます。 でも自分のために涙をながしてくれただけで少し救われたのかな・・・ モルモット扱いというのは色々なことを含んでいます。記憶を消去するということは精神的なものも含むかな。
05.10.09 戻る |